クリニック開業支援は、開業を決めた医師に対して、立地と物件の選定、資金計画、設計・内装、医療機器とシステムの選定、スタッフ採用、行政手続き、開業前の集患準備までを、専門の担い手が伴走して進める支援です。担い手によって報酬の受け取り方が異なるため、支援内容とあわせて「誰が、何で収益を得ているか」を確認することが選び方の出発点になります。
「開業支援は無料という会社もあれば、まとまった費用がかかるという会社もある。何がどう違うのか、正直よく分からない」
勤務医から開業を考え始めた先生方から、私が最初にいただくご相談の多くはこれです。
クリニックの開業は、ほとんどの先生にとって一度きりの大きな意思決定です。立地、物件、資金、設計、機器、採用、手続きと、決めることが多いうえに、相談先によって支援の範囲も報酬の仕組みも大きく異なります。最初の相談先の選び方が、その後の選択肢の広さを左右します。
本記事では、厚生労働省の医療施設調査と医療法・健康保険法の規定を根拠に、クリニック開業支援の中身と、担い手ごとの費用の仕組み、相談を始めるタイミングを整理します。
この記事のサマリー
- クリニック開業支援は、立地・物件・資金・設計・機器・採用・行政手続き・集患準備を、専門の担い手が伴走して進める支援です
- 厚生労働省の医療施設調査では、令和5年10月〜令和6年9月の1年間に一般診療所の開設が7,035施設、廃止が6,501施設あり、施設数は105,207施設(令和6年10月1日現在)でした
- 医師個人が診療所を開設したときは、医療法第8条により開設後10日以内の届出が必要です。保険診療を行うには、健康保険法に基づく保険医療機関の指定を別途申請します
- 開業支援の担い手には、報酬を受け取る専門コンサルタントと、支援を無料・低額で提供し機器・物件・薬局などの取引で収益を得る事業者があり、費用の仕組みが異なります
- 相談を始めるのは物件や取引先が決まる前が理想で、開業前から「地域で何の一番になるか」を決めておくことが20年続く経営の土台になります
目次
クリニック開業支援とは
クリニック開業支援とは、開業を決めた医師が、構想から開業日、そして開業後の立ち上がりまでを計画どおりに進められるよう、外部の専門家や事業者が伴走する支援です。「開業コンサル」「開業サポート」などとも呼ばれます。
開業支援で扱う主な領域
- 立地・物件:診療圏の人口構成や競合の分布を踏まえた立地の検討、戸建て・テナント・医療モールなどの物件形態の比較
- 資金計画:開業資金と運転資金の見積もり、金融機関からの融資の準備、開業後数年間の収支計画
- 設計・内装:患者さんとスタッフの動線を踏まえた院内レイアウト、施工業者の選定
- 医療機器・システム:診療科に必要な機器、電子カルテ・予約・会計などのシステムの選定
- 人材採用:看護師・受付・医療事務などの採用と、開業前の研修
- 行政手続き:診療所の開設届、保険医療機関の指定申請など
- 開業前の集患準備:ホームページ、Googleマップへの登録、看板、内覧会の準備
すべてを1社に任せる場合もあれば、領域ごとに専門家を組み合わせる場合もあります。どこまでを誰に任せるかを最初に整理しておくと、支援の重複や抜け漏れを防げます。
クリニック開業支援は、立地・資金・設計・機器・採用・手続き・集患準備にまたがる開業の工程を、外部の専門家や事業者が伴走して進める支援です。
公的データで見るクリニック開業の現在地
クリニック(一般診療所)の数は全国で10万5千施設前後で推移しており、毎年7千施設規模の開設と、それに近い規模の廃止が同時に起きています。開業を考えるうえで、まずこの全体像を押さえておきます。
開設と廃止がほぼ同じ規模で起きている
厚生労働省の「令和6年医療施設(動態)調査」によると、令和6年10月1日現在の一般診療所は105,207施設で、前年から313施設増えました。この1年間(令和5年10月〜令和6年9月)の動きを見ると、開設が7,035施設、再開が289施設あった一方で、廃止が6,501施設、休止が510施設ありました。このうち無床の一般診療所は99,792施設です(出典:厚生労働省「令和6年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」結果の概要/取得日:2026年10月4日)。
開設の数だけを見ると、毎年多くのクリニックが生まれています。けれど、ほぼ同じ規模で廃止も起きているため、施設数そのものは大きくは増えていません。開業はゴールではなく、続けられる経営を組めるかどうかが問われる、ということを数字が示しています。
直近の施設数
月次の「医療施設動態調査」では、令和8年7月末時点の一般診療所は105,702施設(うち無床100,704施設)でした(出典:厚生労働省「医療施設動態調査(令和8年7月末概数)」/取得日:2026年10月4日)。概数のため後日の確定値とは差が出ることがありますが、施設数が10万5千施設前後で推移している傾向は変わっていません。
一般診療所は年間7千施設規模で開設される一方、ほぼ同じ規模で廃止も起きており、施設数は10万5千施設前後で推移しています。
開業までの流れと必要な行政手続き
クリニック開業は、構想と立地の検討から始まり、資金・物件・設計・機器・採用の準備を経て、行政手続きと開業前の集患準備で仕上げるのが基本の流れです。準備にかかる期間は、戸建てかテナントか、新規開業か承継開業かによって大きく変わります。
開業までの基本の流れ
- 開業構想:診療方針、診療科、地域で担いたい役割、開業の時期を決めます
- 立地・物件の検討:診療圏の調査をもとに候補地を絞り、物件の形態を比較します
- 資金計画と融資の準備:開業資金と運転資金を見積もり、事業計画書をつくって金融機関と相談します
- 物件契約と設計・内装:契約後に院内レイアウトを固め、施工に入ります
- 医療機器・システムの選定:機器と電子カルテ・予約・会計などのシステムを選び、納入日程を決めます
- スタッフ採用と研修:開業日から逆算して採用し、診療の流れや接遇の研修を行います
- 行政手続き:診療所の開設届、保険医療機関の指定申請などを行います
- 開業前の集患準備:ホームページ、Googleマップへの登録、看板、内覧会を準備します
診療所の開設届(医療法第8条)
医療法第8条は、臨床研修等修了医師が診療所を開設したときは、開設後10日以内に、所在地の都道府県知事に届け出なければならないと定めています。所在地が保健所を設置する市や特別区の区域にある場合は、その市長・区長が届出先になります。一方、医療法人など医師個人以外が診療所を開設する場合は、同法第7条により、開設前に許可を受ける必要があります(出典:e-Gov法令検索「医療法」/取得日:2026年10月4日)。
開設届とは別に、エックス線装置を備える場合の届出など、設備に応じた手続きも必要になります。必要な書類や事前相談の要否は保健所ごとに案内されているため、物件が決まった段階で所轄の保健所に確認しておくと安心です。
保険医療機関の指定(健康保険法第65条)
保険診療を行うには、診療所の開設とは別に、保険医療機関としての指定を受ける必要があります。健康保険法第65条は、この指定が病院・診療所の開設者の申請によって行われると定めています(出典:e-Gov法令検索「健康保険法」/取得日:2026年10月4日)。申請先は所在地を管轄する地方厚生局(事務所)で、受付の締切日や指定日の扱いは管轄ごとに案内されています。
開業日に保険診療を始められるかどうかは、開設届と指定申請のスケジュールの組み方で決まります。手続きの順番と締切日から逆算して、開業日を設定することが大切です。
編集長コメント
高梨 真奈美
実際の支援現場で開業日がずれる原因として多いのは、手続きそのものより、内装工事や機器の納入の遅れが手続きの日程に連鎖するケースです。私が関わった開業でも、工事の遅れで開設届の時期がずれ、保険医療機関の指定の時期まで動いてしまったことがありました。開業日は、余裕のない日程で決めないことをお勧めします。
医師個人の開業では、開設後10日以内の開設届(医療法第8条)と、保険医療機関の指定申請(健康保険法第65条)が必要で、開業日はこの2つの日程から逆算して決めます。
開業支援の担い手と費用の仕組み
開業支援の費用は、担い手が「支援そのものに報酬を受け取るのか」「支援は無料・低額にして別の取引で収益を得るのか」で大きく変わります。費用の金額より先に、この仕組みの違いを理解しておくことが大切です。
主な担い手
- 開業専門のコンサルタント:開業の工程全体を設計・管理し、支援の対価として報酬を受け取ります
- 医療機器・医薬品の卸売業者やメーカー:機器やシステムの導入とあわせて、開業準備の段取りを支援します
- 調剤薬局:近隣への薬局出店とあわせて、物件の紹介や開業準備を支援します
- 不動産会社・医療モールの運営会社:物件の紹介や賃貸契約とあわせて、開業準備を支援します
- 金融機関・リース会社:融資やリースとあわせて、事業計画づくりを支援します
- 税理士・会計事務所:資金計画や開業後の会計・税務とあわせて、開業準備を支援します
料金体系の主な型
- パッケージ型:開業までの支援をまとめて定額で受ける形です
- 月額顧問型:準備期間中に月ごとの報酬で伴走を受ける形です
- 成功報酬型:物件の成約や開業の実現など、成果に応じて報酬が発生する形です
- 無料・低額型:支援自体には費用がかからず、機器の購入、物件の契約、薬局の出店などの取引から担い手が収益を得る形です
料金の水準は支援の範囲、地域、開業の形態によって大きく異なり、一律の相場を示せる公的な統計はありません。見積もりを比べるときは、金額だけでなく、どの工程までが含まれているかを必ずそろえて比較してください。
無料の開業支援で確認したいこと
無料の開業支援そのものが悪いわけではありません。担い手が本業の取引で収益を得ているからこそ、手厚い支援を無料で受けられる面もあります。確認したいのは、その支援が「何を買う前提で、何を選ぶ前提で成り立っているか」です。物件・機器・薬局の選択肢がその事業者の取引先に限られていないか、ほかの選択肢と比べる余地を残してくれるかを、最初の段階で確かめておくと、後から選択肢が狭まるのを防げます。
編集長コメント
高梨 真奈美
正直にお伝えすると、無料か有料かで良し悪しは決まりません。私が見てきた中で後悔の声が多かったのは、支援の範囲と収益の仕組みを確認しないまま、最初に声をかけてくれた相手と話を進めてしまったケースです。「この支援は、どの取引で成り立っていますか」と率直に聞いてみてください。誠実な担い手ほど、はっきり答えてくれます。
開業支援の費用は、支援に報酬を受け取る型と、支援を無料・低額にして別の取引で収益を得る型で仕組みが異なり、比較するときは支援の範囲と収益源をそろえて確認します。
高梨メソッド原則から見た開業設計
高梨メソッドでは、開業を「20年続く経営の出発点」として位置づけます。開業準備の段階で特に意識していただきたいのは、次の3つです。
中核ビジョン:開業日から20年後を仮置きする
クリニックは20年続いてこそ、地域医療に貢献できます。開業日から20年後の自院の姿を仮置きで描き、そこから5年後・10年後の節目を逆算しておくと、立地、物件の広さ、機器への投資、採用の考え方に一貫性が生まれます。20年を正確に予測する必要はありません。判断の起点となる時間軸を持つことが大切です。
原則1-3:地域で何の一番になるかを開業前に決める
一番病戦略は、地域で「○○ならここ」と認知される領域を1つだけ作る考え方です。一番は診療内容だけで取る必要はなく、診療時間、予約の取りやすさ、説明の丁寧さなど、複数の軸から選べます。開業前にこの1つを決めておくと、立地の選び方、院内の設計、ホームページで伝える内容までが一本の線でつながります。
原則1-1:開業前から「狙った層に届く」集患を設計する
開業してから集患を考え始めるのでは遅く、開業前の段階から、来てほしい患者層に届く集患を組み込んでおく必要があります。開業前に準備できる集患施策の全体像は、クリニックの集客方法|集患施策の全体像と、効果が落ちたときの見直し方で整理しています。
📖 拙著で詳述
20年という時間軸の考え方は、拙著『医療機関サステナブル経営の20年マップ 〜クリニックを20年続ける高梨メソッド〜』の第1章「なぜ『20年』なのか」で、一番病戦略は第6章「地域内ナンバーワン領域を1つ作る」で、事例とあわせて詳しく解説しています。
開業後の財務の見方はクリニックの損益分岐点とは?計算方法・1日の必要患者数と利益率など財務指標の公的データで、個人開業か医療法人かの判断はクリニックの医療法人化|判断フレームと制度概要を整理するで扱っています。開業後に経営全体を外部の専門家と見直すときの頼み方は、クリニックの経営コンサルティングとは|支援内容・費用の決まり方・契約前に確認する5つのことで整理しています。
高梨メソッドでは、開業日から20年後を仮置きし、地域で何の一番になるかと、狙った層に届く集患を開業前に決めておくことを、開業設計の土台に置きます。
開業支援会社の選び方
開業支援会社は、開業日までの実務の段取りだけでなく、開業前から集患や運営の仕組みまで一体で設計し、開業後も伴走できるかで選ぶのが判断の軸になります。相談を始めるのは、物件や取引先が決まる前が理想です。物件や機器の契約が先に進むと、支援の担い手を選ぶ余地も、ほかの選択肢と比べる余地も狭まります。複数の担い手に同じ条件で相談し、支援の範囲、報酬の仕組み、開業後の関わり方をそろえて比べてください。開業支援会社ごとの得意分野と目的別の選び方は、【2026年最新】クリニック開業の支援会社おすすめ5選|開業から集患まで一気通貫で支える開業パートナー比較で比較しています。
開業支援会社は、物件や取引先が決まる前に複数社へ相談し、支援の範囲・報酬の仕組み・開業後の関わり方をそろえて比べて選びます。
よくある質問
Q1. クリニック開業支援とは何ですか?
クリニック開業支援とは、開業を決めた医師に対して、立地と物件の選定、資金計画、設計・内装、医療機器とシステムの選定、スタッフ採用、行政手続き、開業前の集患準備までを、専門の担い手が伴走して進める支援です。開業コンサルや開業サポートとも呼ばれます。
Q2. 無料の開業支援と有料の開業コンサルは何が違いますか?
有料の開業コンサルは、支援そのものの対価として報酬を受け取ります。無料の開業支援は、医療機器の購入、物件の契約、薬局の出店など、別の取引から担い手が収益を得る仕組みです。どちらが良いかではなく、支援の範囲と、物件・機器・取引先をほかと比べて選べるかを確認することが大切です。
Q3. クリニック開業支援はいつから相談すべきですか?
物件や取引先が決まる前に相談を始めるのが理想です。物件や機器の契約が先に進むと、支援の担い手やほかの選択肢を比べる余地が狭まります。準備期間は物件の形態や新規か承継かによって大きく変わるため、開業時期を決める前の構想段階から相談しておくと日程に余裕が生まれます。
Q4. クリニック開業にはどのような行政手続きが必要ですか?
医師個人が診療所を開設したときは、医療法第8条により開設後10日以内に所在地の都道府県知事(保健所設置市・特別区ではその市長・区長)へ届け出ます。保険診療を行うには、健康保険法に基づき、管轄の地方厚生局へ保険医療機関の指定を申請します。医療法人が開設する場合は、開設前に許可が必要です。
Q5. 開業支援会社を選ぶときは何を確認すべきですか?
支援の範囲がどの工程までか、報酬をどの取引で得ているか、開業前の集患準備まで扱えるか、開業後も伴走してくれるかの4点を確認します。複数の担い手に同じ条件で相談し、見積もりの範囲をそろえて比べると判断を誤りにくくなります。
まとめ
クリニック開業支援は、立地・資金・設計・機器・採用・行政手続き・集患準備にまたがる開業の工程を、専門の担い手が伴走して進める支援です。一般診療所は年間7千施設規模で開設される一方、ほぼ同じ規模で廃止も起きており、開業はゴールではなく続けられる経営の出発点です。担い手によって報酬の仕組みが異なるため、費用の金額より先に支援の範囲と収益源を確認し、物件や取引先が決まる前に複数の相談先を比べることが大切です。開業日から20年後を仮置きし、地域で何の一番になるかを開業前に決めておくことが、20年続くクリニックの土台になります。




編集長コメント
高梨 真奈美
開業準備を始めたばかりの先生は、「何から手をつければいいのか分からない」とおっしゃることがほとんどです。それは当然のことだと私は思います。診療のプロであっても、物件契約や融資、採用は初めての経験だからです。だからこそ、最初に相談する相手の立場と収益の仕組みを知っておくことが、先生ご自身を守ることにつながります。本記事は、その判断材料をお渡しするつもりで書きました。