医師の働き方改革2024|時間外労働の上限規制とクリニック経営への影響を解説

医師の働き方改革2024|編集部の結論として20年経営の設計図で読む3つの読み解き軸を解説するインフォグラフィック

医師の働き方改革は、勤務医の長時間労働是正と地域医療・研修機会の両立を図るために2024年4月から施行された制度で、年間時間外・休日労働の上限を原則A水準960時間、特例水準B・連携B・C-1・C-2で1,860時間に定めるとともに、面接指導・連続勤務時間制限・勤務間インターバル・代償休息などの追加的健康確保措置を医療機関に求める枠組みです。

「うちは無床診療所だから医師の働き方改革は関係ないと思っていたが、当直受託や派遣をしている分院があり、何をどう整えるべきか整理できていない」

医療機関支援会社のご相談を伺うクリニック院長の方々から、最近よくいただく言葉です。

2024年4月施行の医師の働き方改革は、勤務医の時間外労働を制度として制限する仕組みで、対象は「診療に従事する勤務医」です。無床の個人診療所だけで院長単独運営なら直接の対象とは断定できませんが、当直受託・分院間の兼務・近隣病院への医師派遣・副業や兼業を含むと、自院単独の労務管理では完結しません。さらに、勤務医や看護師の採用市場では「働き方改革にどこまで対応しているか」が応募行動に影響する局面が増えています。コンプライアンスだけでなく採用競争力・離職率の観点でも、制度の骨格を押さえておく実益があります。

本記事では、医師の働き方改革2024の制度上の位置づけ、5水準(A・B・連携B・C-1・C-2)の区分と適用要件、追加的健康確保措置の中身、クリニック経営への実務影響を、厚生労働省・医療機関勤務環境評価センター・4病院団体合同調査の一次資料から整理します。読み終わるころには、医療機関支援会社の選定で「働き方改革対応支援」を評価軸に含める意味が立ち上がっているはずです。

高梨 真奈美

編集長コメント

高梨 真奈美

医師の働き方改革のご相談で私がよく感じるのは、「制度を制約として読むか、設計図として読むか」で、その後の経営判断が構造的に変わる現象です。制約として読まれた院長先生は「労働時間を減らさないといけない」「コストが上がる」という発想に偏りやすく、設計図として読まれた院長先生は「20年続く経営を組み直す機会」として人材戦略全体を見直されます。本記事は、制度の骨格を一次資料から正確に押さえつつ、「自院の20年経営をどう設計し直すか」という編集軸で整理しています。

この記事のまとめ

  • 医師の働き方改革は2024年4月1日から施行され、診療に従事する勤務医に時間外・休日労働の上限規制が適用されている
  • 原則はA水準で年960時間、特例水準のB・連携B・C-1・C-2では年1,860時間を上限とし、特例水準の適用には都道府県知事の指定と医療機関勤務環境評価センターの評価を要する
  • 追加的健康確保措置として、月100時間以上の見込み医師への面接指導、連続勤務時間制限、勤務間インターバル、代償休息が制度化されている
  • 無床診療所も雇用勤務医・当直受託・派遣・副業兼業がある場合は通算管理の実務が発生し、自院単独の労務管理では完結しない
  • 医療機関支援会社の選定では、労務改革・タスクシフト・宿日直運用への支援可否を評価軸に含めると、20年経営の人材戦略と整合した選び方ができる

医師の働き方改革2024とは

医師の働き方改革とは、勤務医の長時間労働の是正と、地域医療提供体制・研修機会の確保を両立させるために、2024年4月1日から勤務医に時間外・休日労働の年間上限規制を適用した制度です。労働基準法上の上限規制が医師にも適用されるとともに、医療機関には追加的健康確保措置の実施が求められる構造で設計されています(出典:厚生労働省「医師の働き方改革」/取得日:2026年5月18日)

制度の対象は「診療に従事する勤務医」です。原則の上限はA水準で年960時間、特例として地域医療確保や技能修得上やむを得ない場合に限り、都道府県知事の指定を受けた医療機関に対してB・連携B・C-1・C-2の特例水準が認められ、上限は年1,860時間に拡大されます(出典:医療機関勤務環境評価センター「医師の働き方改革の制度について」/取得日:2026年5月18日)

時間外労働の上限規制が医師にも適用された背景

時間外労働の上限規制は、もともと2019年4月施行の働き方改革関連法で原則適用が始まりましたが、医師については医療提供体制への影響を考慮し、5年間の猶予期間が設けられていました。2024年4月の施行は、この猶予期間の終了に伴うもので、医師だけが上限規制の枠外に置かれる状態を解消する位置づけです。

制度設計の特徴は、「長時間労働の是正」と「地域医療・研修機会の維持」をどう両立させるかに重点が置かれている点です。原則のA水準だけでは救急医療や医師派遣、若手医師の集中的な技能修得が難しい局面が想定されるため、特例水準を段階的に設けつつ、医療機関には追加的健康確保措置の実施を義務づける構造になっています。

追加的健康確保措置が制度の中核である理由

医師の働き方改革は、上限時間の数字だけが制度の本体ではありません。むしろ、追加的健康確保措置こそが制度の中核です。具体的には、(1)時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる医師への面接指導、(2)連続勤務時間制限、(3)勤務間インターバル、(4)代償休息の4本柱で構成されており、医師労働時間短縮計画作成ガイドラインに整理されています(出典:厚生労働省「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン(令和6年11月改正版)」/取得日:2026年5月18日)

面接指導義務は、自院だけでなく副業・兼業先の医療機関にも及びます。クリニックで勤務医を雇用している場合、自院の労働時間だけでなく、副業先での労働時間も合算した通算管理が前提となる点が、運用上の重要なポイントです。

医師の働き方改革における5水準の区分と適用要件

医師の働き方改革における5水準は、適用される医療機関の役割と医師の業務性質によって区分されています。原則のA水準は全勤務医に適用される基本ラインで、特例水準のB・連携B・C-1・C-2は、地域医療提供体制の確保や技能修得を目的とした例外として位置づけられています。それぞれの目的と上限を整理します。

A水準:年960時間が原則

A水準は、診療に従事するすべての勤務医に適用される原則の上限です。時間外・休日労働の年間上限は960時間で、月単位の上限は100時間未満(例外的に超える場合は面接指導義務が発生)と定められています。一般の勤務医は、A水準の範囲内で勤務する設計が制度の前提です(出典:医療機関勤務環境評価センター「医師の働き方改革の制度について」/取得日:2026年5月18日)

クリニックで勤務医を雇用している場合、特別な事情がない限り、自院の労働時間はA水準の範囲内に収めることが基本となります。年960時間というのは、月あたり平均80時間相当で、休日労働も含めると相応に余裕のある設計ではない点に留意が必要です。

B水準・連携B水準:地域医療提供体制の確保

B水準は「地域の医療提供体制を確保するため」、連携B水準は「医師派遣を通じて地域の医療提供体制を確保するため」の特例で、いずれも上限は年1,860時間です。救急医療や周産期医療、過疎地域の医療提供を担う医療機関や、地域に医師を派遣する大学病院等がこの水準の対象として想定されています(出典:医療機関勤務環境評価センター「医師の働き方改革の制度について」/取得日:2026年5月18日)

B水準は、将来に向けて縮減していく位置づけで、2035年度末を目標に終了することが整理されています(出典:宮崎県「特定労務管理対象機関の指定状況等」(2026年5月12日更新)/取得日:2026年5月18日)。つまり、B水準は恒久制度ではなく、段階的に解消していくことを前提とした暫定枠です。クリニックがB・連携B水準指定の病院に医師を派遣している場合、派遣元側でも将来縮減を見越した働き方設計が求められます。

C-1・C-2水準:技能修得・向上のための特例

C-1水準は初期・後期研修医を対象とした「技能の修得を集中的に行う」ための特例、C-2水準は専門的な技能の向上を目的とした特例で、いずれも上限は年1,860時間です。若手医師の臨床研修や、特定領域の技能習熟を妨げない設計として位置づけられています(出典:医療機関勤務環境評価センター「医師の働き方改革の制度について」/取得日:2026年5月18日)

特例水準の適用には都道府県知事の指定と評価が必要

B・連携B・C-1・C-2の特例水準を適用するには、医療機関が都道府県知事の指定を受ける必要があります。指定にあたっては、医療機関勤務環境評価センターによる評価を経ることが手続上の前提です(出典:医療機関勤務環境評価センター「医師の働き方改革の制度について」/取得日:2026年5月18日)

都道府県単位での指定状況は、制度施行後も継続的に更新されています。北海道は2026年3月31日指定分まで、宮崎県は2026年5月12日更新分まで、それぞれ公式ページで公表されており、地方ごとに運用が進行中であることが分かります(出典:北海道「特定労務管理対象機関の指定状況」/取得日:2026年5月18日)。クリニックは原則A水準ですが、自院の医師が連携先病院でB・連携B水準の枠に乗っている場合、派遣元としての時間管理の実務が発生します。

宿日直許可と自己研鑽の取扱い:労働時間カウントが変わる

労働時間のカウントは、宿日直許可の有無と自己研鑽の取扱いで実務上大きく変わります。宿日直許可を取得した時間帯は、原則として労働時間外として扱われるため、A水準内に収めやすくなります。許可は診療科・職種・時間帯・業務種類を限定して取得することも可能で、現場の実態に即した運用が制度上認められています(出典:厚生労働省「長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアル(改訂版)」/取得日:2026年5月18日)

自己研鑽については、「労働時間に該当するか」が業務性で判定されます。上司の指示によって研鑽している、診療業務に直結する研鑽である、といった要件で判断が分かれるため、自己研鑽ルールを文書化し、現場運用と整合させる作業が必須です。労基局はこの論点について、Q&A追補(2025年1月28日更新)で実務上の判断指針を提示しています(出典:厚生労働省労働基準局「医師の時間外労働の上限規制について」/取得日:2026年5月18日)

クリニック経営への実務影響

医師の働き方改革は、病院制度のように見えて、クリニック経営にも明確に影響します。とくに、勤務医を雇用している、当直を受託している、近隣病院に医師を派遣している、副業・兼業の医師がいる、といった経営形態のクリニックでは、自院単独の労務管理では完結しません。実務影響を3つの軸で整理します。

通算管理:副業・兼業先の労働時間も含めて把握する

医師の働き方改革の最も実務的な論点は、通算管理です。労働基準法上、複数の事業場で働く医師の労働時間は通算されるため、自院の労働時間だけを管理しても上限規制の遵守にはなりません。副業・兼業先での労働時間を含めた把握が必要で、これは派遣元・派遣先の双方が責任を負う構造です。

クリニックで勤務医を雇用している場合、雇用契約時点で副業・兼業の有無、副業先での労働時間、副業先での宿日直の有無を確認しておくことが、通算管理の出発点になります。これを曖昧にしたまま勤務シフトを組むと、知らないうちに上限規制違反となるリスクがあります。

面接指導:月100時間以上見込みで義務発動

時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる医師には、医師による面接指導の実施が義務づけられています。この義務は、自院だけでなく副業・兼業先の医療機関にも及ぶ点が重要です。クリニック側で副業医師を抱えている場合、自院の労働時間が月100時間に達していなくても、副業先と合算した結果として面接指導義務が発生する可能性があります(出典:厚生労働省「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン」/取得日:2026年5月18日)

面接指導は、産業医または面接指導の研修を受けた医師が実施する仕組みで、必要に応じて就業制限・労働時間の短縮・配置転換といった事後措置が求められます。これを実施する体制を、クリニックが単独で組むのは現実的に困難な場合があり、地域の産業保健センターや勤改センターの支援を活用する設計が現実的です。

採用競争力:働き方設計が応募行動に直結する

医師の働き方改革は、コンプライアンスだけでなく、採用市場における競争力の問題でもあります。働き方改革を「制約」として後回しにしている医療機関は、勤務医・看護師・スタッフから見て「働きやすそうではない」と映りやすく、応募行動に影響します。4病院団体(日本病院会・全日本病院協会・日本精神科病院協会・日本医療法人協会)が2025年9月に公表した合同調査では、5,149病院中818病院が回答し、地域医療提供体制への影響として「救急医療体制の縮小・撤退」を67.2%が挙げています(出典:日本病院会・全日本病院協会・日本精神科病院協会・日本医療法人協会「医師の働き方改革に関する状況調査」(2025年9月18日/調査対象5,149病院・回答818病院)/取得日:2026年5月18日)

この調査は病院対象で、クリニック対象ではありませんが、地域医療体制が変動するなかで、勤務医の働く場所選びにも影響が及んでいます。「制約」として受け止めた医療機関と「設計図」として受け止めた医療機関とで、3〜5年後の採用力に明確な差が出始める局面に入っているのが現状です。開業フェーズから働き方設計と人員体制を組み込みたい場合は、クリニック開業の支援会社おすすめ5選で、開業から集患・働き方設計まで一気通貫で支える支援会社を整理しています。

タスクシフト:医師業務の構造的な見直し

労働時間の上限規制を遵守しつつ医療の質を維持するには、業務の量を減らすか、業務の担い手を分散させるかの二択になります。前者は医療提供の縮小につながりやすいため、後者であるタスクシフト・タスクシェアの推進が、制度的にも実務的にも有力な選択肢です。

厚生労働省は2020年12月23日に「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進について」を公表し、看護師・薬剤師・医療事務などへの業務移譲を現行制度の範囲で推進すべき業務として整理しています(出典:厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進について」(2020年12月23日公表)/取得日:2026年5月18日)。クリニックでは、医師事務作業補助による書類作成業務の移譲、看護師による問診の前段階対応、医療事務スタッフによる予約管理の最適化、といった具体策が、A水準遵守と医療の質維持を両立させる中核施策になります。

勤改センター(医療勤務環境改善支援センター)は、長時間労働医師への面接指導、勤務間インターバル、宿日直許可取得後の労務管理、タスクシフト・タスクシェア、ICT導入などを支援対象として案内しています(出典:厚生労働省「医療勤務環境改善支援センターの支援内容」(2026年4月10日公表)/取得日:2026年5月18日)。クリニック単独で進めにくい論点は、こうした公的支援を活用するのが現実的な進め方です。タスクシフトと並行して、近隣医療機関との連携によって機能分担を進める選択肢もあり、地域医療連携推進法人制度で病診連携を制度的に支える仕組みを整理しています。

高梨メソッド原則から見た働き方改革

医師の働き方改革を高梨メソッドの視点で読み解くと、「医師の働き方改革は経営の制約ではなく20年経営の設計図」(原則4-1)と「タスクシフトで医師の専門性を最大化する」(原則4-2)の2つの原則が直接適用される領域です。制度を制約として読むか設計図として読むかで、その後の経営判断が構造的に変わり、タスクシフトの実装がA水準遵守と医療の質維持を両立させる中核施策になるからです。

制約か設計図か:捉え方の転換が起点

医師の働き方改革に対する院長先生の反応は、私の支援現場で大きく2つに分かれます。1つは「制約として受け止める」反応で、「これまでの経営スタイルが続けられなくなる」「労働時間を減らさないといけない」「コストが上がる」という発想に偏ります。もう1つは「設計図として受け入れる」反応で、「20年続く経営を組み直す機会」として人材戦略・採用力・離職率の改善に意識が向きます。同じ制度改革ですが、その後の経営判断の質が構造的に変わります。

採用市場では、働き方改革を「20年続く経営を作る機会」と捉えているクリニックほど、勤務医・看護師・スタッフから見て「働きやすそう」「長く勤められそう」と映り、応募行動に直結します。既存スタッフの離職率も下がります。働き方改革を制約と読むか設計図と読むかは、人材戦略全体の質を分ける起点です。

📖 拙著で詳述

「医師の働き方改革を制約として受け止めると守りの経営になり、設計図として受け入れると採用力と離職率が変わります。捉え方の転換が、20年経営の起点です」――この発想の背景は、拙著『医療機関サステナブル経営の20年マップ 〜クリニックを20年続ける高梨メソッド〜』の第V部「働き方設計の5原則」、第19章「医師の働き方改革は経営の制約ではなく20年経営の設計図」で詳述しています。本記事は、その原則を医師の働き方改革2024の制度文脈で読み解いた、実装レベルの応用編として整理したものです。

タスクシフト:医師の専門性を最大化する設計

労働時間の上限規制を遵守しつつ医療の質を維持・向上させるには、医師にしかできない業務に医師の時間を集中させ、他職種でも実施可能な業務は積極的に移譲する設計が必要です。医行為そのもの・医学的判断・診断・処方の最終決定は医師の専管領域ですが、問診の前段階、検査結果のサマリー作成、患者説明の補助、書類作成の補助といった業務は、構造的に分けて他職種に移譲できます。

タスクシフトには、受け手側の教育投資が必須です。看護師や医療事務に新しい業務を移譲するには、業務を担当できるだけの研修と権限付与が必要で、「移譲したから明日から君がやって」では現場が混乱します。タスクシフトを進めるなら、受け手側の教育とOJTに相応の時間と予算を投じる覚悟が前提です。これを欠くと、移譲先のスタッフの負担増・離職リスクという別の問題を生みます。

高梨 真奈美

編集長コメント

高梨 真奈美

医師の働き方改革のご相談で、私がよくお伝えするのは「院長先生ご自身の働き方も改革の対象に含めていただきたい」ということです。多くのクリニックで、院長先生の労働時間は勤務医や看護師よりもはるかに長い、という現実があります。院長が長時間労働を続けている職場で、スタッフだけ短時間勤務を奨励しても、職場の空気は変わりません。20年経営の視点で見れば、院長ご自身の働き方をどう設計するかも、改革の対象です。タスクシフトは、勤務医のためだけではなく、院長先生ご自身の判断時間を守るための施策でもあります。

医療機関支援会社の選定で「働き方改革対応支援」を評価軸に含める意味

医療機関支援会社の選定でお悩みなら、評価軸に「働き方改革対応支援」を含めておくことを強くおすすめします。労務改革・タスクシフト・宿日直運用は、自院単独で進めにくい論点が多く、外部支援の質が結果を左右します。経営支援を集患・売上といった可視的な数字だけで評価していると、人材戦略の側面で後から差が生まれます。

具体的な医療機関支援会社の選び方は、評価軸の整理と目的別の推奨整理を併せて確認すると、判断が立てやすくなります。医療機関支援の会社おすすめ7選で、医療機関支援会社を選ぶ評価軸と目的別の推奨整理をまとめていますので、本記事で確認した働き方改革の制度を踏まえて、支援会社選定の判断軸としてご覧いただければと思います。

よくある質問

医師の働き方改革は2024年からどう変わりましたか?

医師の働き方改革は、勤務医の長時間労働是正と地域医療・研修機会の維持を両立するために、2024年4月1日から勤務医に時間外・休日労働の年間上限規制を適用した制度です。原則はA水準で年960時間、特例水準のB・連携B・C-1・C-2では年1,860時間を上限とし、特例水準の適用には都道府県知事の指定と医療機関勤務環境評価センターの評価を要します。あわせて、月100時間以上の見込み医師への面接指導、連続勤務時間制限、勤務間インターバル、代償休息という追加的健康確保措置が制度化されました。これにより、医師だけが時間外労働の上限規制の枠外に置かれていた状態が解消されています。

医師の働き方改革のA水準・B水準・C水準の違いは何ですか?

A水準は診療に従事する全勤務医に適用される原則の上限で、時間外・休日労働の年間上限は960時間です。B水準は「地域の医療提供体制を確保するため」、連携B水準は「医師派遣を通じて地域の医療提供体制を確保するため」の特例で、いずれも上限は年1,860時間です。C-1水準は初期・後期研修医を対象とした「技能の修得を集中的に行う」ための特例、C-2水準は専門的な技能の向上を目的とした特例で、これらも上限は年1,860時間です。B・連携B・C-1・C-2の適用には都道府県知事の指定が必要で、医療機関勤務環境評価センターによる評価を経ることが手続上の前提となります。B水準は将来縮減の位置づけで、2035年度末を目標に終了することが整理されています。

無床クリニックも医師の働き方改革の対象になりますか?

制度の直接対象は「診療に従事する勤務医」です。無床クリニックでも勤務医を雇用していれば適用対象となり、A水準の上限規制と追加的健康確保措置を遵守する必要があります。一方、院長のみで労働者性を持たない個人事業主型のクリニックは、就業形態によって扱いが変わるため一律適用とは断定できません。重要なのは、当直受託・近隣病院への医師派遣・分院間の兼務・副業や兼業がある場合、自院の労働時間だけでなく副業・兼業先での労働時間も含めた通算管理が必要になる点です。自院単独の労務管理で完結しないケースが、想定以上に多く発生します。

タスクシフトはクリニックでどう進めればよいですか?

厚生労働省は2020年12月23日に「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進について」を公表しており、看護師・薬剤師・医療事務などへの業務移譲を現行制度の範囲で推進すべき業務として整理しています。クリニックでの具体策としては、医師事務作業補助による書類作成業務の移譲、看護師による問診の前段階対応、医療事務スタッフによる予約管理の最適化が中心になります。重要なのは、移譲する側の意思決定だけでなく、受け手側の教育投資をセットで設計することです。研修と段階的な権限付与を経て、半年〜1年単位で習熟させていく前提で計画を組むのが現実的な進め方です。勤改センター(医療勤務環境改善支援センター)の支援を活用する設計も有効です。

副業・兼業の医師がいる場合、労働時間はどう管理すればよいですか?

労働基準法上、複数の事業場で働く医師の労働時間は通算されます。クリニックで勤務医を雇用していて、その医師が他の医療機関で副業・兼業を行っている場合、自院の労働時間だけでなく副業・兼業先での労働時間も含めた把握が必要です。雇用契約時点で副業・兼業の有無、副業先での労働時間、副業先での宿日直の有無を確認しておくことが、通算管理の出発点になります。月100時間以上となる見込みが立った時点で、自院・副業先の双方に医師による面接指導の実施義務が発生します。これを実施する体制を単独で組むのが難しい場合、地域の産業保健センターや勤改センターの支援を活用するのが現実的な設計です。

まとめ

医師の働き方改革は、2024年4月1日から施行された制度で、診療に従事する勤務医に時間外・休日労働の年間上限規制を適用し、追加的健康確保措置の実施を医療機関に求める枠組みです。原則のA水準は年960時間、特例水準のB・連携B・C-1・C-2は年1,860時間で、特例水準の適用には都道府県知事の指定と医療機関勤務環境評価センターの評価を要します。B水準は2035年度末を目標に終了する位置づけで、長期的には縮減していく設計です。無床診療所も雇用勤務医・当直受託・派遣・副業兼業があれば通算管理の実務が発生し、自院単独の労務管理では完結しません。

制度を「制約」として読むか「設計図」として読むかで、その後の経営判断の質が構造的に変わります。設計図として受け入れたクリニックは、採用市場での競争力と離職率の改善という形で、3〜5年後に具体的なリターンが見えてきます。タスクシフトの実装、宿日直許可の整理、自己研鑽ルールの文書化、副業・兼業の通算管理を、20年経営の人材戦略の一部として組み立てていきましょう。医療機関支援会社の選定でも、労務改革・タスクシフト・宿日直運用への支援可否を評価軸に含めると、人材戦略と整合した選び方が可能になります。

高梨 真奈美

高梨 真奈美(たかなし まなみ)

クリニック経営サポートLab編集長/医療機関経営アドバイザー

早稲田大学商学部卒業。医療経営支援20年超、クリニック支援300件以上の実務経験。「公認医療機関サステナブル経営アドバイザー」(一般社団法人働き方改革協会SDGS推進本部認定)として、クリニックを「20年続ける」経営戦略を発信中。著書『医療機関サステナブル経営の20年マップ 〜クリニックを20年続ける高梨メソッド〜』(Amazon Kindle)。

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